クリエイティング・シェアード・バリュー(CSV)を理解してみましょう

マーケティングに競争戦略という考え方を構築したのが、マイケル・E・ポーターです。

そのポーターが2011年にCSV(クリエーティング・シェアード・バリュー)を提唱しました。

考え方は以下の通りです。

社会問題の解決と企業の競争力の向上を両立させ、企業と社会の双方に価値を生み出す取り組みの事で、それらの実践を通して、寄付やボランティアを中心とした従来のCSR(企業の社会的責任)活動から脱却していくという方向性を見出しています。

具体的には3つあります。(アベノミクスの3本の矢にちなんでいる訳ではありません)

一つは社会問題を解決する製品・サービスの提供です。

特に、従来は政府などによる対応が必要と考えられていた社会課題を解決する製品やサービスの提供を想定しているのです。

社会課題を事業機会と捉え、自社の製品・サービスでいかに社会課題を解決するかを探究して新規事業を創出・推進していくのです。

二つ目はバリューチェーンの競争力強化と社会への貢献の両立です。

効率化を通じたコスト削減、サプライヤー(部品や材料の供給会社)育成を通じた高品質原料の安定供給など、バリューチェーンを最適化しつつ社会問題を解決するものです。

※バリューチェーンもポーター教授が考案した分析ツールとなります。

購買→製造→物流→販売といった活動の流れを図示したものです。

このチェーンに含まれる活動に関連した社会問題、例えば物流におけるCO2の排出による環境汚染を排出量の削減によって解決し、バリューチェーンの強化と社会貢献を両立させるといった事などがそれにあたります。

三つ目は事業展開地域での競争基盤強化と地域への貢献の両立です。

事業展開地域における人材、周辺産業、輸送インフラ、市場の透明性などを自ら強化する事を通じて、地域に貢献しつつ、自社の競争力を向上させる事を目的としています。

これらの考え方は、CSRを推し進め、直接的に企業価値を向上させる事になります。

他社との差別化に苦しんでいる企業にはこういった要素を取り入れる事で新たな道筋を検討出来ると思います。

新たな道筋が鮮明になった場合、自社にそのハードが無い、ソフトが無いなどの問題は問題ではありません。

それらを備えている企業との提携において、より多くのバリューを市場に届ける事が可能となるのです。

例えばキリンホールディングスにはクリエーティング・シェアード・バリューを推進する部署があります。

CSV本部がそれにあたります。

皆さんご存知の【キリンフリー】はこのコンセプトのもとに開発された商品となります。

【キリンフリー】はまず第一の方向性に基づいているのです。

飲酒運転による交通事故多発という社会問題の解消に向けて開発した世界初のノンアルコールビールがキリンフリーなんです。

さらに、採取したての岩手県遠野市産ホップを凍結して原料として使っている「一番搾りとれたてホップ生ビール」などの製品は、生産農家の存続という地域問題の解決にも貢献しているといいます。

環境負荷を低減する容器の開発も、第一の方向性に合致していると言えると思います。

出荷製品の集約化による積載量の多いトラックによる台数を削減する取り組みは、第二の方向性。

被災地に対する農業支援は、事業展開地域での競争基盤強化につながっているといえます。

これらは第三の方向性でしょうね。

被災地に対する現在のキリンの取り組みにもふれておかなければなりませんね。

2011年7月に「復興応援キリン絆プロジェクト」というスローガンを掲げて支援活動をスタートしました。

まずはハードの支援でした。

農林水産省、県、市とのつながりや大学との連携です。

ビールなどの原料、飼料の拠点作り、仙台工場の復興、農業機械支援でJAと協働。

支援の予算は60億円という大きなものですが、初期の支援が一段落すると地域農家が今後の成長プランを描けるような支援へと変化してきました。

キリンは次なるステージとして、ソフト支援を行いました。

バリューチェーン作りを推進し、恒常的に成長出来る仕組み作りを行っているのです。

まずはチャネルです。

・6次産業化(生産→加工→販売)

・量販市場に販路拡大

・業務用市場に販路拡大

次に規模毎による連携。

次に地域ブランドの育成といった具合です。

公募で選ばれた農業団体の中から、支援先と支援金額を決定し支援先の農業団体が事業を実施する際のブランド育成や販路拡大にもキリン社員が活動していくのが基本的な形です。

さらには、世代間のつながりを活性化する為に、ネットワーク作り支援、将来の担い手・リーダー育成を支援、農業高校への就学を支援、などの活動を行います。

これらを具体的な形にする為に、東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクトで行っているのです。

農業経営者リーダーズネットワークin東北では、岩手、宮城、福島3県の農業法人の経営に携わっている人を対象にした生産管理や会計・財務・マーケティングといった経営の各分野の基礎知識を東北大学で学ぶことが出来ます。

復興プロデュースカリキュラムin東京では、三菱地所などが主催する市民大学「丸の内朝大学」の1講座として、被災地の復興につながる農業ビジネスを仕掛ける人を育てる人材を育成する事を目的としています。

キリンビールの取り組みは他にもありますが、これらをCSV本部が主となり活動していっているのです。

クリエーティング・シェアード・バリューのコンセプトをご理解いただくのに、非常にわかりやすい取り組みだったので、キリンの事例をご紹介いたしました。

くしくも大震災という新たな活動ステージが日本にはあると言う事で、このコンセプトが推進されているのは正直あまり心地が良いものでは無いですが、これからの人々に対して希望ある将来を一緒に生きて行く為には、重要な取り組みであります。

個人的に出来る事はキリン商品を購入する事となります。

CSVはこのように結果、その企業のファンを作る事になる活動であると言えます。

皆さんの企業でも、少しづつ取り入れてみたらいかがでしょうか?